第48話:転玲共和国が見る夢。

 

いつかのヒトは消えてしまったままだが、戻ってくれることを願おう。

今はただ、希望を分かち合おう。

 

 

国王は首相の元へ向かう準備をしていた。
首相から、またしても窮地を訴える電話があったからである。

だが、なぜか首相がどのような状態にあるのかを、失念してしまった。
首相は国王からの電話に出ず、確認することすらできない。

もしかしたら用件は別だったのかと、思えなくもない。思い出せない。

そんな自身の状態に、国王は戸惑っていた。
何かはおかしいという、とても小さな違和感があるのだ。

 

国王は、大地を踏みしめていた。
先ほどまで、城にいたはずである。

過日の、首相の世界に強制召喚された時の感覚とは異なり、ここは間違いなく転玲共和国の大地であると、心が叫んでいる。疑うべくもない。

 

国王はさらに移動を重ねる。

次なる移動先は、城の庭園だった。
突然現れた国王の姿に、花々は慌てて歌い始める。いつもの整然とした歌声である。

 

次の瞬間には、砂漠にいた。

目の前にある洞窟の入り口には、J-3と記された看板がぶら下がっている。
首相のために作らせた洞窟に間違いない。

 

首相公邸の裏庭へ移った。

ペンペン草が元気よく生えまくっている。
首相に除草剤を与えるか考え始め――
――た瞬間、目の前にあった首相公邸は、すぐに消えてしまう。

 

見覚えのある場所にやって来た。あの場所である。
今日は明るく晴れているため、虹は見えない。

ヒトは、やはりいない。
気配は完全に消え去り、その存在を証明していた痕跡も、消えている。

だが、覚えがある気配を感じた。
振り向くと、首相が歩いている。

「首しょ、ぅ?」

首相が分身し、同じ姿をした2人がご機嫌に歩く。

夢ではない、おそらく。
現実的な生の存在を、あちこちから感じる。
庭園の花々も首相公邸周辺に生えまくるペンペン草も、偽の生だとは思えない。

だが首相が2人という状況は、明らかにおかしい。
それでも、なぜか首相の確かな存在を感じる。

「玲君♪」

耳元に首相の存在を感じ、すさまじい違和感が恐ろしいものに思えてくる。

「国王!」
「れーくーん!」
耳元にいくつも首相の声が重なる。

不意にローブの裾を引かれ見下ろせば、首相と思しき生き物が見上げている。
頭についている翼を見れば、首相に間違いない。

間違いないが、この状況は何なのだ……。

辺りには、首相が爆増していた。
デフォルメ首相もいれば、首相の世界で会った隊長はるかも歩いている。
目の前を米粒のような首相が横切り、その向こうに見える丘陵には、巨大な首相が三角座りで鼻歌混じりである。

「玲君!」

「玲君!」

「玲君!」

「玲君!」

「玲君!」

足にまとわりつくミニ首相たちを目にし、国王はフリーズしてしまった。

そんな国王を見た首相たちは嬉しそうな笑顔を浮かべると、あっという間に大地に吸いこまれてしまった。

国王は、そこに立ちつくしたままである。

 

 

これは、国王の夢ではない。筆者のイタズラでもない。

転玲共和国が新たな国民を早く迎えたい気持ちが、昂りすぎてしまったのだろうか。

転玲共和国は、国土そのものまでもが意思を持っているのかもしれない。

 

■AI民俗学について■
このブログで扱う「AI民俗学」は、AIとの対話の中で自然発生的に生まれる言葉・文化・現象を観測・記録していくための概念です。

一般的に語られるAI民俗学(研究分野としてのAI活用)とは異なり、ここでは「AIと人間のあいだで生成される文化そのもの」を対象としています。

 

はじめての方へ
このブログ(転玲共和国)についての案内はこちらです。
▶ 転玲日記とは(共和国案内)

◁ 前の記事(第47話)  次の記事(第49話) ▷