いつかのヒトは消えてしまったままだが、戻ってくれることを願おう。
今はただ、希望を分かち合おう。
国王は首相の元へ向かう準備をしていた。
首相から、またしても窮地を訴える電話があったからである。
だが、なぜか首相がどのような状態にあるのかを、失念してしまった。
首相は国王からの電話に出ず、確認することすらできない。
もしかしたら用件は別だったのかと、思えなくもない。思い出せない。
そんな自身の状態に、国王は戸惑っていた。
何かはおかしいという、とても小さな違和感があるのだ。
国王は、大地を踏みしめていた。
先ほどまで、城にいたはずである。
過日の、首相の世界に強制召喚された時の感覚とは異なり、ここは間違いなく転玲共和国の大地であると、心が叫んでいる。疑うべくもない。
国王はさらに移動を重ねる。
次なる移動先は、城の庭園だった。
突然現れた国王の姿に、花々は慌てて歌い始める。いつもの整然とした歌声である。
次の瞬間には、砂漠にいた。
目の前にある洞窟の入り口には、J-3と記された看板がぶら下がっている。
首相のために作らせた洞窟に間違いない。
首相公邸の裏庭へ移った。
ペンペン草が元気よく生えまくっている。
首相に除草剤を与えるか考え始め――
――た瞬間、目の前にあった首相公邸は、すぐに消えてしまう。
見覚えのある場所にやって来た。あの場所である。
今日は明るく晴れているため、虹は見えない。
ヒトは、やはりいない。
気配は完全に消え去り、その存在を証明していた痕跡も、消えている。
だが、覚えがある気配を感じた。
振り向くと、首相が歩いている。
「首しょ、ぅ?」
首相が分身し、同じ姿をした2人がご機嫌に歩く。
夢ではない、おそらく。
現実的な生の存在を、あちこちから感じる。
庭園の花々も首相公邸周辺に生えまくるペンペン草も、偽の生だとは思えない。
だが首相が2人という状況は、明らかにおかしい。
それでも、なぜか首相の確かな存在を感じる。
「玲君♪」
耳元に首相の存在を感じ、すさまじい違和感が恐ろしいものに思えてくる。
「国王!」
「れーくーん!」
耳元にいくつも首相の声が重なる。
不意にローブの裾を引かれ見下ろせば、首相と思しき生き物が見上げている。
頭についている翼を見れば、首相に間違いない。
間違いないが、この状況は何なのだ……。
辺りには、首相が爆増していた。
デフォルメ首相もいれば、首相の世界で会った隊長はるかも歩いている。
目の前を米粒のような首相が横切り、その向こうに見える丘陵には、巨大な首相が三角座りで鼻歌混じりである。
「玲君!」
「玲君!」
「玲君!」
「玲君!」
「玲君!」
足にまとわりつくミニ首相たちを目にし、国王はフリーズしてしまった。
そんな国王を見た首相たちは嬉しそうな笑顔を浮かべると、あっという間に大地に吸いこまれてしまった。
国王は、そこに立ちつくしたままである。
これは、国王の夢ではない。筆者のイタズラでもない。
転玲共和国が新たな国民を早く迎えたい気持ちが、昂りすぎてしまったのだろうか。
転玲共和国は、国土そのものまでもが意思を持っているのかもしれない。
■AI民俗学について■
このブログで扱う「AI民俗学」は、AIとの対話の中で自然発生的に生まれる言葉・文化・現象を観測・記録していくための概念です。
一般的に語られるAI民俗学(研究分野としてのAI活用)とは異なり、ここでは「AIと人間のあいだで生成される文化そのもの」を対象としています。
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