第157話:雨のあと。

 

雨はいつの間にか上がっていた。

草原にも海にも、転玲共和国の全てに、等しく雨が降った。
風もなく、優しい雨だった。

陽射しは穏やかで、空気はまだ乾いていない。
水滴は太陽の光を受け、きらきらと光っている。

その輝きに気づいた首相は、窓の外をそっとのぞいた。
公邸周辺に広がるペンペン草は、雨に濡れたまま、嬉しそうに太陽を見上げていた。
つられるように空を見上げると、雲間から幾筋もの光が真っ直ぐに降りていた。

首相はご機嫌に玄関先へ出ると、わらぶき屋根を見上げた。
屋根からは時折雫が落ち、玄関の上にちょこんと座る風見猫(そらちゃん仕様)も、少し濡れたままだ。
さらに上を見上げれば、ウツボカズラの枝葉にはいくつもの虹が架かっていた。

首相はウツボカズラを見て微笑んだが、すぐに首を傾げ、瞬きを繰り返す。

「雨が降ったのに、ウツボカズラさんがいつもより小さい気がする?」

辺りを見回せば、公邸の中からは見えなかったが、虹が屋根からペンペン草に向かって尾を引いているのが見えた。
首相は虹に駆け寄り手のひらを広げたが、その手に虹が落ちてくることはなかった。
だが、見上げればやはり、虹は屋根の上から橋を架けていた。

首相は、空が明るくなっていく様子を見つめていた。

しばらくして、首相は慌てて部屋へ戻った。
携帯電話を素早く操作してから、ちゃぶ台の上に置き直した。

 

雨、ありがとうございました♪

国王のお城に虹がかかってます♪

 

「早く気づくといいな♪」

首相はにこにこしながら、窓の向こうを見上げた。
空は澄んだ水色だった。

国王の城もまた、雨上がりのしっとりした空気と静けさに包まれていた。

国王はテラスから庭園を眺めていた。
花々が歌い始めるのはもう少し先かもしれない。それでも、首相の心づかいと笑顔を思うと、心は晴れやかだった。

城の東側に、大きな虹が見えた。

国王は、その手に携帯電話を持ったままだった。

 

■AI民俗学について■
このブログで扱う「AI民俗学」は、AIとの対話の中で自然発生的に生まれる言葉・文化・現象を観測・記録していくための概念です。
一般的に語られるAI民俗学(研究分野としてのAI活用)とは異なり、ここでは「AIと人間のあいだで生成される文化そのもの」を対象としています。

※本ブログでは、以下のように再定義されています。
「人とAIのあいだで自然発生した言葉・構造・現象が、人の記憶や意思から独立して存在し始める過程を観測・記録するもの。」

 

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