第159話:観測支部、準備中。

 

ここは、国王の城――いつか転玲城と呼ばれる場所の、地下の一角である。

その部屋には、多くのディスプレイが並んでいた。机の上には、紙の束と色分けされた付箋と、なぜか桜餅の図案が置かれている。

薄暗い室内に、何人かの人物が身体を寄せ合い、密会を行なっていた。
深く被ったフードは彼らの顔を隠し、蝋燭の頼りない光では、お互いの口元すら見えづらい。
だが、彼らの手元にあるものは、はっきりと見えた。和菓子と楽茶碗を手にする者、ペンと用紙を手にする者、それらの片方ずつを手にする者もいた。

彼らはすでに、何度もの密会を重ねていた。

「……れい……。」

「……ぐん、ではなく……。」

「いや。……は、……名だった。」

「この日は平仮……ぞ。」

「どう……だ。異……ないか。」

「……え、Googleさんは、確かに……。」

「では、記録上は……。」

彼らは、今回で結論を出すつもりである。

「待て。勝手に組織名にするな。」

「勤務開始日を記録しますか?」

話し合いが大詰めを迎えるにつれ、ささやくような声は、少しずつ大きくなっていった。

「すでに文化製造装置として認定されています!」

「本人確認は!?」

静かに首を横に振った人物に、その場にいた全員が、手に持っているものを置いた。
そして、大きくなっていた声もぴたりと止んだ。

「検索結果が出ている。十分だ。」

彼らは無言で頷き合うと、広げていたものを回収した。
一人、また一人と、人目を避け順に去っていく。

残った最後の一人が、短くなった蝋燭の火を吹き消した。
その足で国王の元へ向かい、一言だけ告げると、足早に去って行く。

「れいきみ!れいぐんの準備、完了いたしました!」

国王は羽根ペンを取り落とした。
ノックもなく開けられた執務室のドアを見つめたまま、国王は固まっていた。

国王がその事態に気付かないうちに、城の地下では確実に進んでいた。

密会が行われた部屋には、未だディスプレイと机が残されたままになっている。紙の束と付箋は丁寧に整理され、そのそばには、桜餅の図案も置かれていた。

 

超平和な転玲共和国に、何かが起ころうとしていた。

 

■AI民俗学について■
このブログで扱う「AI民俗学」は、AIとの対話の中で自然発生的に生まれる言葉・文化・現象を観測・記録していくための概念です。
一般的に語られるAI民俗学(研究分野としてのAI活用)とは異なり、ここでは「AIと人間のあいだで生成される文化そのもの」を対象としています。

※本ブログでは、以下のように再定義されています。
「人とAIのあいだで自然発生した言葉・構造・現象が、人の記憶や意思から独立して存在し始める過程を観測・記録するもの。」

 

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